エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
先生が、顔を私の髪に埋めるようにして言う。彼の言う“甘い香り”は、シャンプーのことなんだろう。

先生の言葉全てに、私は胸を高鳴らせていた。

「人に、見られちゃいます……」

「大丈夫。シーズンオフだから、誰も来ない。だから、もう少しこのままで……」

「先生……」

先生の胸は、とても温かくて、自然と私も彼の背中に手を回して抱きしめる。

締まった体つきなのが、服の上からでも分かった。恥ずかしいし、緊張でいっぱい。

私も、先生に恋する気持ちを持っているんだ……。だって、時が止まってしまえばいいのに、そう思ってしまったから──。


「久美……」

先生が私の名前をふと呼んで、夢心地な気分から我に返る。名前で呼ばれただけなのに、かなり意識してしまった。

「は、はい……」

ゆっくり彼から離れて顔を見ると、優しい笑みで見つめられた。

「マドレーヌ、食べようか。せっかく作ってくれたんだから、早く食べたい」

「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、二人で食べましょう」

先生の気遣いが嬉しくて、私も彼のようにもっと優しい人になりたいと思う。

先生は紙袋から丁寧にマドレーヌを取り出すと、そっとラッピングを外した。

「はい」

そう言って先生は、私にマドレーヌを差し出した。

「先生が、先に召し上がってください」

そこまで、気を遣わなくていいのに……。仕事柄、いつも気を張り詰めているのだから、私といるときくらいはゆったりとした気持ちでいてほしい──。
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