エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
だけど、先生は優しい笑みを浮かべたまま、マドレーヌを私の手に置いた。

「久美と一緒に食べたいから。ほら、持って」

「は、はい……」

本当にドキドキする……。マドレーヌを取るだけなのに、先生の姿がスマートだからか、目を離せなかった。

先生はもう一つのマドレーヌを取り出すと、ラッピングを外す。

「どうかした? ずっと見てるけど」

私の視線に気づいた先生が、クスッと笑いながらこちらを見た。

「す、すみません。つい……。マドレーヌ、食べましょうか?」

照れ隠しに、私はマドレーヌを一口かじる。すると、先生はもう一度クスクスと笑い、マドレーヌを口にした。

「おいしいな。きみのマドレーヌを食べたら、店のものは食べられない」

真剣にそう言われ、さらに気恥ずかしくなる。

「先生は、お口が上手ですね……」

と言うと、先生は不本意だとでも言いたそうに、私を軽く睨んだ。

「俺は、思ったことを言っただけだ。お世辞なんて言わない」

「すみません……」

私だって、そういう人だと思っている。だけど、先生があまりに恥ずかしいことを言うから、素直に受け止められなかった。
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