エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
本屋は一階奥にあり、誰でも利用できる。外来の待合室とは反対にあるため、ここは比較的静かだ。

時折遠くから、外来患者を呼び出すアナウンスが聞こえてくるくらい。

キオスク程度の広さの本屋だけれど、意外と種類があり驚いてしまった。

「どれにしようかな……」

点滴をつけたまま、本を探している女性や、小さな子どももいる。人に当たらないよう、車椅子を動かしながら、一冊の雑誌が目に付いた。

それは、月刊の経済誌で、飲料メーカーの特集をやっている。思わず手に取り、パラパラとめくると、私の勤務するタチバナ飲料も紹介されていた。

どうしよう……。買おうかな。でもここへ来たのは、小説を買うのが目的だったし……。

だけど、業界の将来性とか他社のことが書かれてあって、興味もある。ただ、会社のことを考えると、どうしても切なくなってくるから、読めるかどうか……。

やっぱりやめよう、そう思い文庫の棚に向かったけれど、好みの本が見つからない。仕方がないから、諦めて部屋へ戻ろうかな。

ため息交じりに本屋を出て、廊下を進んでいたとき、正面から白衣姿のお医者さんがやってきた。

医者……という立場の人の割には、少し派手めな人。栗色の髪は、自然な感じに流れていて、目鼻立ちが整った端正なルックスをしている。

誰かに似ているような、しかもどこか見覚えがあるような……。その先生を、ちらちら見ながら車椅子を進めていると、先生も私に視線を向け、そして言った。

「久美ちゃん⁉︎」
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