届かぬ想い
その時は深くは考えてはいなかった。

親父の言ったことに、ただ素直に従いたくなかっただけだった。

けれどその時に頭の中に浮かんだのはあのときに言ったアヤノの言葉


『しないうちから諦めるの?』


俺をあそこまで詰まんないと何度も言ったヤツは他にいない。

俺の作った笑顔に思いっきり顔をしかめたヤツも……


「俺さ、イタリア料理のシェフになりたいんだよね」


こんなこと口に出したのは初めてだった。

子供の頃、家族でよく行っていたのは近所の小さなイタリアンレストランだった。

あの頃食べた料理の味は今でも覚えている。うちの家族が、まだちゃんとした家族だった頃のあの味。

俺はあの頃に感じた、あの気持ちを料理に一緒に添えて振る舞いたいと思った。

だから、イタリア料理。

俺はレストランの経営ではなく、食べてくれるお客様にダイレクトに伝わる作り手になりたかった。


「そんなに簡単じゃないぞ」


わかってる

だけどここで諦めたら

俺の人生って誰のためのものだよ……


「あぁ」

「期間は三年、それ以上は待たない。そのかわり、大学をきちんと卒業してから行け」


親父はそれだけいうと席をたった。
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