届かぬ想い
「旅行?」
このワイナリーはツアー客も利用するらしいから彼女もそう思ったんだろう。
「いや、」
イタリアで修業している。
ただそう言えばいいだけなのに、なぜか言葉が出ない。
なら何?とでも言いたそうな顔で見る彼女はやっぱり不機嫌そうだ。
ずいぶんと嫌われたもんだよな、俺も。
「…今、こっちに住んでる」
「あら、そうなの」
彼女にしてみればそんなことも珍しいことではないらしく、その後の追及はない。
もっとも、俺に興味がないだけかもしれないが。
彼女は俺の記入していたメモに何か書きだした。
「今日は友達と一緒だから、今度連絡して」
それだけ言うと、友達のほうへ戻って行った。
――――こんな偶然
…が、俺の学生時代の記憶を呼び戻させた。