届かぬ想い


「楽しかったよ。それじゃ、またね」


ベッドでまどろんでいる女に声をかけて部屋を出る。

“また”なんてことはない。

同じ女と寝ることなんてないから。



通りに出てタバコに火をつける。

梅雨独特のまとわり付くような空気が肌を撫でた。



「ハ 気持ちのいいことしたはずなのに、気持ちが塞ぐなんておかしいだろ……」


その声は闇へと消えていった。



こんなこといつまでも繰り返しても何も―――


吐く煙が上っていくのを見つめて目を閉じる。


愛なんて
恋なんて
幻だ

そんなものは、一時の迷いでしかない。
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