続*もう一度君にキスしたかった
「何? もしひとりだったらお祝いしてくれるの?」


もちろん、同期会で、という意味だ。
私と伊崎は同僚としてこれまでと変わらずやっているけれど、一緒に食事をする機会は減った。
たまに昼に偶然時間が合って駅ソバかファミレスに行くことはあるけれど。


「無理。俺、今日は夜から販売員の面接あんだよ。こないだ急に辞めたのが居て」

「あー、大変。忙しくなる前に早めに確保しとかないとね。大丈夫よ私は、別に祝ってもらわなきゃ泣くような年でもないし」

「ま、よっぽどのことがない限り、遅くはなっても今日中に帰ってくるんじゃね?」

「多分? でも誕生日のことは話題にも出なかったからもしかしたら忘れてるかも」

「それはない。はいこれ」


やたら確信的に言い切った伊崎が、手に持っていた袋を私に差し出した。


「何これ」

「誕生日プレゼント」


袋の中を覗くと、四角いキャンディーのボックスが入っていた。


「ってこれうちの商品じゃん!」

「美味いよなこれ」


知ってるよ!


なんて、ふたりで軽口を叩いてまだ廊下で立ち止まっていたのだが、「吉住さん!」と少し慌てた調子で今度は佐々木さんが私を呼んだ。


「良かった、まだ居て。東武の店舗から電話入ってます」


言いながら、彼女の眉がきゅっと細められる。
その表情だけであまりよくない電話なのだろうと予測すれば、案の定だった。


「なんかちょっと、大変みたいです。店舗にクレームが入ったらしくて」

「え」

「先方、かなりお怒りのようで責任者を出せって」


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