続*もう一度君にキスしたかった


そう思えば思うほど、何をすればいいのかわからなくなる。男性と全く同じ分野で張り合ってしまえば、女性が不利に決まっている。
女性らしい細やかさ、気配り、発想……そういった曖昧なものに頼らざるを得ないところが、辛いところだ。


「……例えば男性に頼ってしまえば、女性が他の面で男性に返せるものがあるのかどうか、考えてしまいます。そうなると、よっぽど気の置ける相手でないと頼るのを躊躇います」

「そうだね。男も女も関係なく、助け合えれば理想だけれど、綺麗ごとでもあるね」

「ですよね、男性に助けられることの方が多そうですもん。そしたら結果、『男性社員の方が効率的』という答えが出てしまう」

「それでも僕は、いつか自分のエリアを誰かに渡すなら他の男性社員より伊崎より、吉住が一番いい、そう思ったよ。だからあの時、専属の補佐を君に指名した」


さっきまでのキスの甘やかな余韻は、会話の中にはもうどこにもない。
ただ寄り添う体温だけだ。
つまり。


『吉住が一番いい』


そう言われたのは、公私混同ではなく……上司としてあの頃そう思っていてくれた、ということだ。
驚いて隣を仰ぎ見れば、彼の表情が穏やかに微笑んで私を見ている。

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