続*もう一度君にキスしたかった
「どうして、ですか」

「吉住は結構、頭でっかちだよね。色々考えてしまうのはわかるけど、男だとか女だとか関係なく君の性格はマネージャーに向いてるよ。素直でなんでも吸収するスポンジみたいなところがあるから、教え甲斐もあった」


仕事面で、まさかそこまで言ってもらえるとは思わなくて、なんて返せばいいやらわからなくなった。


照れくさくなって、つい目線が逃げる。
「そうですか?」とかろうじて出た声は素っ気ないものだ。


「……困らせてないなら、良かったです」

「別の意味では、困ってるけれどね」


お腹にあった彼の両手の片方が、私の首筋に上がり顎の下を擽った。
そっぽを向いてないでこっちを見て、という合図だとなんとなく察して目線だけ動かせば、ちゅ、とコメカミにキスが触れた。


「別の意味、って?」

「真帆を含め、女性社員が気兼ねなく働けるようにと思う反面、そうしたら真帆は今より仕事に夢中になってしまいそうだな、とも思う」


仕事の話から今度は一転、『吉住』から『真帆』呼びに変わった。
また揶揄ってるのか、と思ったけれど、そうではなかったと続いた会話の微妙なニュアンスで私は気付くことになる。


仕事と、プライベート。
『吉住』と『真帆』
このふたつは、彼の中では繋がったひとつの問題であったのだ。


「……夢中に、なったらダメですか?」

「ダメなことはないよ」


顔ごと彼に向ければ、顎を擽っていた指がくるりと翻って頬に触れた。
その時の彼の目が、なんとも複雑だったのだ。


切なげでいて、誇らしくもあるような、慈しむような。
心底困った、と伝わってくる、優しい苦笑いだった。


「ただ、タイミングを測りかねる、かな」

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