続*もう一度君にキスしたかった
少し痛いくらいに抱きすくめられて、顔が上向く。
朝比奈さんの言葉が何を指しているのかわからなくて、問いかけた。
「朝比奈さん? 何のことですか」
「……こういう時、女性社員ひとりでお客様のところに行くのは控えなさい。必ず男性社員と連れ立っていくこと」
「え……」
彼がそれを、どんな顔で言ったのかは見えなかった。
抱きしめたまま私の首筋に隠れての言葉で、彼はなお、続けた。
「伊崎でも、誰でもいいから頼って、ひとりではいかない。職場全体がそういう意識を持たなければいけない」
「……でも、今までだって女性のマネージャーは少なくてもいたけど、そんな」
そんな風な扱いは、受けていなかった。
男性社員と同等で、基本助け合うことはあっても女性だからという扱いはされていなかったのだ。
それを、ここに来てもしも朝比奈さんがそんなことを言い出せば、流石に職権乱用だ公私混同だと言われかねない。
朝比奈さんと私のことは、幸か不幸か社内である程度知られることとなっているのだから。
「……それは、あの。上司として、ですか、それとも」