続*もう一度君にキスしたかった

「どっちだろう、自分でも定かじゃないから困ってるんだ」


くす、と首筋で笑う気配がして、その息遣いが私の肌を擽った。


「心配したんだ、本当に」

「大丈夫ですよ、だから上がらずに玄関先で作業してましたし。怒鳴られはしましたけど、そういう、変な意味で怖いことはありませんでした」


背中に手を回して、私からもきゅっと抱き着くと、彼が少しばかり納得したのか首筋から顔を上げる。


「……嫌な思いをした人を知ってるからね」

「え……そうなんですか」

「真帆は知らない人だけど。……だから真帆に限らず、そういうガイドラインは一度作らないといけないなとは思ってる」


知らなかった。
同じマネージャーだった人で、ということだろうか?


これまでそんな話は聞いたことはなかったが、考えてみれば嫌な想いをしていたとして、人には知られたくないだろうから話に上らなくても当然だと言えた。


「それより、真帆」


真正面から抱き合ったままの姿勢で考え込んでいると、つん、と目元を指先で突かれて朝比奈さんと目を合わせる。


朝比奈さんの目尻が、柔らかく優しく下がった。


「今日はふたりで誕生日のお祝いをしようと思ってたんだけど」

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