続*もう一度君にキスしたかった
やっぱり、覚えていてくれたのか。
嬉しいのと同時に、私の仕事ですっかり待たせてしまったと申し訳なさが募る。


「ごめんなさい。もしかして、何か考えてくれてたんですか」


朝比奈さんのことだから、覚えていてくれたなら何か準備でもしていてくれてたんじゃないだろうか。
だけど彼は、優しく笑って首を振る。


「そんなことはないよ。どうしたい? お腹空いたでしょう」


時刻はもう、八時を回っている。
もしかしてディナーでも、と思っていてくれたのかもしれないけれど……。


きっと、化粧はハゲハゲで、瞼は腫れあがっている。
だって、すごく重たいから。


こんな顔でレストランとかは行きづらいし……何より。


私は再び、彼の胸に擦り寄り深呼吸する。
今はこの体温を少しでも感じていたかった。


「お家に帰って、ふたりでゆっくり食べたいです」

「そんなのでいいの?」

「その方がいい」


ふたりきりの方がいい。


朝比奈さんが、寝起きに駄々っ子になるように。
私は時々、無性に甘えたになる。


昔の自分じゃ、とてもじゃないけど恥ずかしくて出来なかった。

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