続*もう一度君にキスしたかった
木藤さんに連れられて来たところは、売店の隣の空きスペースに作られた食堂のような雰囲気だったが、確かにコーヒーにはこだわっているのか豆の種類が豊富で、院内カフェにしては珍しいと感じた。
豆の種類はよくわからないので無難にブレンドを注文し店員が下がると、改めて向いに座る木藤さんに目を向ける。
そこで、あっと気が付いた。
「すみません、昨日私、ろくに名乗りもしないままで……吉住真帆と言います」
「えっ! いえ、こちらこそ。バタバタと慌てて帰ってごめんなさい」
「何かお急ぎだったんですか?」
「ううん、そうじゃ、なくて」
手を横に振って、少し大げさに見えるジェスチャーの後、彼女の顔は少し困り顔になって頬が赤くなった。
「なんか、朝比奈くんの彼女を目の当たりにすると、恥ずかしくなっちゃって。私のせいなんだからって気張ってた自分が、なんか図々しいね。ごめんね」
「全然! そんなことはないです、付き添っていただいててありがとうございました」
「ああ、いや、それだけじゃなくてね」
恥ずかしそうにどもりながらそう言う彼女に、私の感想は、これだった。
……可愛い。
これは、もしも本当にライバルなら強敵だ。
しかも、隠しておけないタイプなのか自分の感情を話したがる様子に、適当にお茶を濁すわけにはいかない展開を予測し覚悟した。
だけど大丈夫、相手が木藤さんであれ誰であれ、私は私だ。
昨夜考えていたことを胸の中で反芻し深呼吸をすると、私は背筋を伸ばしまっすぐに彼女を見据えた。