続*もう一度君にキスしたかった


「昨日午後から急に言われてね。笹木くんと朝比奈くんと一緒にマネージャー業務について行かされて……多分、その後私がマネージャーに戻りたいかどうか、その話がしたかったみたい」


育成の木藤さんがどうして催事の会場に居たのか、それで理由がわかった。


「育成に回された理由、って、聞いてもいいんですか?」

「……吉住さんって、エリアマネージャー?」

「はい」


頷くと、彼女は口元に手を当て考えるような仕草を見せる。
それから「怖がらせたいわけじゃないんだけど」と前置きをして、話してくれた。


「お客様の家でね、怖い思いをしたことがあるの。……性的なことでね」


語尾は小さく、周囲を憚ったものだった。


当然、誰彼に聞かれたい内容ではないはずだ。
私にだって本当は話したくなかったかもしれない……だから大きく括った簡潔な言葉のみで、それ以上の説明は避けたんだろう。


私自身、『性的な』という言葉だけで嫌悪感が湧き、思わず片手が口元を覆った。


「朝比奈くんも、そういうことがあったことは知ってたみたいだけど……その後私がマネージャーから育成に異動になった経緯は詳しく知らなかったみたい」

「え……希望して異動になったわけじゃなく?」


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