【完】恋歌
途切れ途切れの雲に乱されて、月が妖しく嘲笑う。
ざわり、と生温い風が冷えた肌に纏わり付いてゆく。
ずっと待ち望んでいた時が、遂に目の前に訪れようとしている。
何度も何度も願った…形の無い幻影(マボロシ)。
それが今やっと、この手の中に。
「愛しいヒト…貴女をやっとこの手に…」
甘い睦言のような囁き。
陶酔している自覚があるのか無いのか…そこまでは分からない。
ただ、それまで何の感情もなかった男の中に、淡くも強い想いが芽生えた事は確かだった。