【完】恋歌
相変わらず妖しく輝く薄月…。
何時の間にか雲は流れ、月明かりの中で彼の顔が露わになる。
深い漆黒の髪に、蒼白く整った顔には憂いの色が刻まれている。
シルクのシャツを少しだけ着崩し、髪と同じぐらい黒いマントが全身を覆って、彼の計り知れない孤独さを隠すようになびく。
人形のように透き通った瞳は、紅の炎の色に染まっていた。
それは、彼が人間では無い証。
「早く……俺の元へおいで…?」
仄かな月の光の中で呟く言葉は不思議な程、慈愛に溢れていた。
沢山の時を超えて、出逢うことになる最愛のヒト。
これ以上焦らさずに、早く早く逢いに来て。
叶わなかった願いは、今度こそ果たしてみせる。
哀しい歴史はもう……終わりにしよう。