【完】恋歌
薄暗く崩れ掛けた教会の隅の方で、何やら不吉な祈祷が、ぼそりぼそりと聴こえてくる。
乗って来た馬を近くの木の繁みに隠すと、彼女は足音も無く声のする方へと進んで行った。
その動きには一つの迷いも無く、隙さえもない。
大きな襲撃を受けたかのような教会の中は、荒廃し混沌としていて、思わず目を背けたくなる有様だ。
瓦礫に埋め尽くされている中で、怪し気に揺れる炎を見つける。
生き残りであろう数人の村人の姿が、ちらちらと燃えるその炎の奥にはあった。
だがしかし、その光景は己の目を疑うようなものだった。
ざらり、冷えた地にどこか生温い風がそよぐ。
すっかり闇に心を奪われ、神聖なる教会の中で魔術を行い、「名も無き者」と呼ばれた破滅神へと、その村人達は加護を求めようとしているのである。