《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 口をへの字にして怒る妹に付いて行き、大人しく席に着く。ラインアーサは少し俯きながらジュリアンの隣に腰を下ろした。

 ラインアーサのちょうど向かい側には優雅に読書をしてるイリアーナの姿。
 しかしラインアーサに気付くと頁に栞を挟み本を閉じ、顔を上げるとぱっと笑顔になった。

「お疲れさまアーちゃん! 今日はジュリから剣術を教わったそうね。さっきリーナから聞いたのよ。それで、アーちゃんはどうして突然剣術なんて習い出したの? 剣なんて危ないわ! 姉様は心配よ。ああ、とにかく怪我だけはしない様に気を付けてね? アーちゃんが怪我なんてしたらお父様とお母様はもちろん私も…」

「ね、姉様…!」

「なあに? アーちゃん」

 一気に捲し立てるイリアーナ。
 そして過度な心配性は今に始まった事ではない。

「姉様、あの。そろそろ、そのアーちゃんって呼び名……恥ずかしいっていうか…」

「まあ、急にどうしたの?」

「急にってか。お、俺。最近色々考えてるんだけど…」

「あら? ちょっと待って、アーちゃん。あなた髪がまだ濡れてるじゃあない!!」

 その不本意な愛称について抗議しようにも、弱弱しい声はイリアーナの指摘で掻き消された。

「あ、うん。まだ乾いてなくて…」

「そうなの? そのままだと風邪をひいてしまうわ! まあ!  ジュリあなたもなのね。ちょっと二人ともこちらへいらっしゃい?」

 手招きされ側に移動すると、イリアーナは先程ジュリアンもラインアーサも失敗に終わった風を吹かせる煌像術(ルキュアス)を見事に披露した。

 イリアーナの吹かせた風はとてもあたたかく穏やかかつ、瞬時に二人の髪を乾かした。同時に心地の良い香りに包まれ晴れやかな気分になる。

「すごい…! ありがとう、姉様」

「ありがとうございます、イリア様! 今度その煌像術(ルキュアス)のコツを俺にも教えてください」

「ふふ、良いわよ。でもその前に二人ともジュストベルの授業をちゃんと真面目に受けなくちゃね?」

「あはは…」

「俺はイリア様に教わりたい〜!」

「ちょっと! おにいちゃん!! イリアさまに失礼なんだからね」

「だってジュストじい様厳しいんだもん」

「それはお兄ちゃんがまじめにしないからでしょ!!」

「えー?」

 ジュリアンとリーナの賑やかな会話が弾む中、イリアーナは幼い子供にする様にラインアーサの頭をぽんぽんと撫でて満足そうに微笑んだ。
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