《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
日々の思い出を君と
王宮の裏手の森の中には美しい泉があり、その畔にはローゼン家の先祖が代々眠る樹木墓地が在る。
そこでエテジアーナの埋葬式がとり行われた。
大葬の儀全てを結び、王宮へ戻り故人を偲ぶ会食の流れとなったがライオネルの顔色が優れず、早めに切り上げとなった。
「───アーサ。俺、あの手紙に書いた事本気だぞ! だからやっぱり…」
ジュリアンはそのまま私宅の部屋にラインアーサを招き、お茶を淹れた。
これからはすぐ傍でラインアーサを守る為に警備隊の職を捨て王宮へ戻る、そう伝えようと思ったのだ。茉莉花の香りを深く吸い込み意を決して心の内を話そうとした時だった。
「ジュリ。お前に頼みがあるんだ」
ジュリアンのそれを説き伏せる様な強い意志を持った瑠璃色の瞳に見つめられる。
以前もこんな事があった。
「……頼みって?」
初めて剣の稽古をつけて欲しいと頼まれた時だ。毎日泣いてばかりで弱虫だった頃。
しかし今は───。
「俺。姉様を探しに行こうと思うんだ。勿論……今の俺には到底無理だって分かってる。だからもっと強くなるし、その為に沢山勉強する。少しずつ準備も整える。もしかしたら姉様を探しに王宮から、いやこの国から出る事になるかもしれない」
「っ…この国を出るって、急に何言ってんだよ?!」
「俺は姉様がいる所になら何処にだって行くよ」
「でもっ」
「……もう、これ以上父様を悲しませたく無いんだ」
「アーサ…」
「それで。その時は絶対にジュリの力が必要になる」
「俺の……力? 必要って…」
「俺これからは何でもやる。色んな知識をつけてどんな事をしてでも必ず姉様を探し出してみせる。だからジュリも前に俺に話してくれた目標を、絶対に叶えて───」
ラインアーサの声に乗った言葉はジュリアンの心の奥に深く届いた。
「……わかったよ。前にも言ったろ? 俺、必ず王宮警備隊になる。なんなら隊長になってみせるぜ! そしてお前も家族もこの国もみーんな守るからな!! それに、主が求めるどんな事にでも対応出来るのが従者の務めってもんだろ!」
「ありがとう…。ジュリには何度感謝しても足りないくらい…」
先程まで引き締まっていた顔が一気に崩れ、困った様に笑顔を見せたラインアーサはジュリアンの肩に頭を乗せた。
「ぅわっ、何だよ。どうした?!」
「…っ…こんな事頼めるの、本当にジュリしか居ないよ……」