《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 そう言うラインアーサの声は掠れて震えていた。儀式の間ずっと耐えていたのだろう、ラインアーサは堰を切った様に声を立てて泣いた。

「…ったく。あったりまえだろ! 任せろって」

 ジュリアンもまた堪えていたものが限界を迎え、静かに涙を流した。

 暫く肩を貸していたがふいに涙をふいて顔を上げたラインアーサはなんとも晴れやかな表情だった。


「……もう、平気なのか?」

「ん、いつまでもめそめそしていたら母様が安心出来ないだろ。それに、こういう時こそ笑顔が大事なんだって教えてもらったんだ」

 そう言って微笑んだラインアーサの笑顔は何よりも眩しく輝いて見えた。

 誰なのかは分からないがラインアーサにそれを教えた者に心から感謝する。
 本当は自分が教えてあげられたら良かったのだが出来なかったから。

「そっか…。でも泣きたくなったらまた何時でも肩を貸してやるよ」

「ありがとう。でも大丈夫。俺はもう泣かないって決めたんだ」

「ほんとかぁ?」

 真面目な雰囲気についその場を茶化す。

「本当だってば! あ。俺、今からちょっと出かけてくる!!」

「は? 今からって、何処に行くんだよ?」

 窓の外を見るともう陽が傾き始めている。

「大丈夫、王宮の横庭に行くだけ」

「横庭? 何で…?」

「約束したから。俺に出来る事からやるんだ」

「はあ? 意味がわからん! じゃあ俺も行くぜ」

「……いいけど、怖がらせないでね」

「誰をだよ!! てかなんだ、今の顔!?」

 ほんの一瞬照れる様な顔をしたラインアーサの脇腹を小突く。

「うーん、やっぱりジュリは来なくても…」

「はあああ? 絶対俺も行くし…ってコラ! 逃げるなよ!!」

 逃げる様に走り去るラインアーサの背中を追いかける。相変わらず足が早くなかなか追い付けないが、それでもついて行くことは出来る。

 こうやってラインアーサの背中を追う度、共に過ごした日々を思い出すだろう。


 今はそれぞれの道を歩んでいても。

 必要なる時があれば必ずやはせ参じるのだと。その日まで誰にも負けない真の強さを。

 果てしない夢と譲れない気持ちを胸に抱き、主の願いを叶える為なればどんな困難だろうと立ち向かおう。
 
 主の笑顔とこの国の平和を守る為。
 

 それが何より尊く、己を導いてくれる宝物だから。




 ───アーサ。

 俺はお前と稽古した日々をずっと、ずっと忘れない。



 終
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