《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「ね、姉様! 俺もう小さくないって!」

「ふふ、アーちゃんはまだまだ小さいままで良いのに……なんてね」

「もう! 今は俺の方が小さいけど、そのうちジュリも姉様も絶対追い抜くからな!」

「はいはい」

 ラインアーサより四つ歳上のイリアーナ。

 ラインアーサと同じ焦がし砂糖の様な色の髪を両脇編み込みでまとめ、残りの髪はふわりと後に流している。

 緑玉のように澄んだ瞳を細めて弟を見守っている姿は正に聖女の様だ。ジュリアンもリーナも実の姉の様に慕っている。

「……あれ? それで、母様は?」

「ふふ、今取っておきの焼き菓子が焼けたから取りに行ってるの。そろそろ来るんじゃ…」

「きゃあー! ちょっと誰か手伝って〜!」

 イリアーナが言い終えないうちに背後の扉からエテジアーナの叫び声が耳に届く。

「母様?!」

 振り向くと大きな盆の上に正面が見えなくなるほどめいいっぱい焼き菓子を乗せたエテジアーナが何とか扉を開けて入ってくる所だった。
ラインアーサが駆け寄って一緒に運ぶのを手伝う。

「わあ! こんなにたくさん焼いたの?! すごい色々あるね」

「アーちゃんありがと! えっへへ! イリアがブラッド君にも贈るって言ってたからつい張り切りすぎちゃった」

「お、お母様!! 皆には内緒って言ったのに〜!」

「ごめんイリア! でもイリアがブラッド君にお熱なのは皆知ってるけど?」

「えっ! ええっ?! 姉様ってそうなの?!」

「ふふーん、母様にはバレバレなのだよ」

「もう! お母様ったら…!」

 イリアーナは真っ赤に染まる頬を両手で隠した。その仕草からして恋する乙女そのものだった。


「さて! 焼き菓子も揃ったし、美味しいお茶の準備もカンペキ! 皆揃ってるかしら?」

「はーい! 揃ってまーす」

 ジュリアンは待ってましたと張り切って返事をしたが、リーナに睨まれてしまった。

「では、どうぞ召し上がれ!」

 エテジアーナは胡桃色の髪を揺らし少女の様ににこりと微笑むとそれぞれのカップにお茶を注いでいく。
 優しく香るお茶は空腹を更に増幅させ、その状態で頬張る焼き菓子は極上の味がした。

「……お、おいしい!!!」

「まじでやばいな! これ、幸せの味がする!!」

「王妃さま、イリアさま! お菓子もお茶もとってもおいしいです!」

 それぞれ好きな焼き菓子を手に取り夢中で頬張る。
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