《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 思いついたかの様にここぞと声をあげるラインアーサ。しかしエテジアーナも即座に反論する。

「ええー?! どうして? だってアーちゃんはアーちゃんだわ! それに無理しなくたって〝僕〟のままでも強くなれるぞー?」

「アーサ、俺もそう思うぞー!」

「駄目! もう決めたの!!」

「うん、姉様もアーちゃんは〝僕〟の方がかわいいと思うわ?」

「うう……姉様まで! ひどい!! ってか禁止だってば!」

「アーサさまおちついてくださいっ! あたしはどちらでも、す、すてきだとおもいます!!」

「ありがとうリーナ! そう言ってくれるのはリーナだけだよ」

「そうやって大人になっていくのね……アーちゃん」

「母様そんなにしんみりしないで!! ああもう!」

 むきになって抗議するラインアーサを皆でいじりながら賑やかにお茶の時間は過ぎていった。


  一通り楽しんだ後、イリアーナとリーナはブラッドフォードの為に取っておいた焼き菓子を箱に詰めてリボンなどで可愛らしく包装した。
 一緒に添える手紙を書き始めたものの何度も唸っては書き直したりしている。

 食べた分は消費するぞ! と張り切るジュリアンに付き合わされたラインアーサは腕立て伏せや腹筋の回数を競ってまたもや汗だくだ。

 その様子を木陰から幸せそうに見守っていたエテジアーナだが、気づくと意識を手放して夢の世界へと身を投じていた。

 その頃合いを見計らった様に、ライオネル。
 ───この国の国王が庭園の間にやって来た。


「父様!!」

 いち早く父の気配に気づいたラインアーサが声をかけたがライオネルは唇の前に人差し指を立てて目配せをした。
 そのまま落ち着いた調子の声で話し始める。

「やあ、皆。そのまま続けてて大丈夫だよ。僕はアナを迎えに来ただけだからね」

「あ。母様、いつの間にかお昼寝してる…」

 ライオネルとラインアーサがエテジアーナの側で屈みそっと顔を覗き込む。

「ああ、とても可愛らしい寝顔だろう?」

「……うん。幸せそうだね」

 一見とても幸せそうだが、その伏せられた瞼と寝顔があまりにも美しく何故か恐ろしくなった。

「ふふ、どんな夢を見ているのかな。邪魔はしたくないのだが、このままここで風にあたっていたら身体に触るだろう?」

 そう言うとライオネルはエテジアーナを優しく抱き上げてゆっくり立ち上がった。

「……んん……レオ…?…」
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