《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
かたくなな君
「──ジュリアン!!!!」
休日の昼下がり。平和そのものである王宮にジュストベルの怒声が轟いた。
何故かというと、先程ついに発覚してしまったのだ。ジュストベルがとりわけ大切にして収集している専用茶棚の貴重な茶葉を殆ど駄目にしてしまったのを。
犯人はもちろん───。
部屋の扉が軽やかに叩かれた。
「ラインアーサ様? 彼奴を見かけませんでしたか?」
声の主はジュストベルのものだ。自室で読書していたラインアーサは慌てて返事を返した。
「ジュストベル! どうかしたの?」
「……入っても、宜しいでしょうか?」
「もちろん…!」
探る様な視線と声色と共にジュストベルが部屋に入って来た。
「失礼します。ああ、読書をされていたのですね。邪魔立てして申し訳ございません」
「大丈夫だよ。……ジュリを探してるの? 俺も今日は見てないよ!」
ラインアーサは書物を閉じると椅子から立ち上がった。
「そうでしたか。お時間を煩わせてしまいましたね、しかし此処へ来ていないとなると何処へ逃げ込んだのやら」
「あ、夕方剣の稽古つけてもらうけど何か伝言があるなら…」
「いえ、お構いなく。私から直接言い渡す事があるとだけ伝えて下さい」
「わかった」
にっこりと恐怖の微笑みを浮かべたジュストベルに圧倒されそうだ。そして足早に扉へと向かい退室する間際に振り返り一言。
「ラインアーサ様。お分かりかとはお思いですが、彼奴を庇って頂いても何も得策では御座いませんのでもし…」
「も、もちろん。……心がけるよ」
「……では失礼します」
全く逃げ足だけは一人前。リーナの所にも寄ってみましょう。と溜息混じりの独り言を呟きながらジュストベルは長い廊下を歩いて行く。
ラインアーサは扉口でその背中を見えなくなるまで見届けると小さく息を吐いた。
と同時に無防備な耳元にそっと囁く。
「……行ったか?」
「わ! ジュリ急に後ろ立つなよ。びっくりするだろ?」
「ごめんごめん、匿ってくれてありがとな!」
「はあ……別にいいけど、今回は何をしたんだ? ジュストベルかなり怒ってるように見えたけど…」
「ああ、ちょっとな」
「ちょっとって怒り方じゃあなかった様な。早くちゃんと謝った方がいいよ」
「はいはい、わかってるって」
そう返事はしたが怒られると分かっていてむざむざと謝りに行く訳がないのだ。