《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「ううっ…いちばん気にしてる事なのに…」

 ラインアーサもはじめは否定せず曖昧に返事を返していたのだが、今日も今日とてやれ「お熱いねぇ~」や「まあ、最近の子はませてるのね!」など、更には「小さくてかわいいカップル」などと商店街の年配者達や道行く老人特有の〝冷やかし〟にすっかり参っていた。

「あはは、そんなに気にすんなよ。アーサはアーサ、だろ? お前だっていつも俺にそう言ってるじゃん」

「そうだけど…」

 おそらくジュリアンが過保護なのだ。何処に行くにもラインアーサの前をゆき、時には保護する様にぴったり付き添って歩く。
 王宮内では当たり前の光景でもそれに慣れてしまっているラインアーサは何も違和感を感じていない。
 傍から見ればジュリアンはとても紳士的だ。主を守る従者なのだから当然なのだが、一般的に見るとその光景は仲睦まじく買い物を楽しむ幼い男女二人組に見えなくもない。
 ラインアーサの中性的な顔立ちが拍車をかけているのも間違いないが。

「なんて言うかさ、アレだほらっ! アーサは王妃様によく似てるし!! その、なんだ。どこか守ってやりたくなる雰囲気って言うか……まあ、そもそも俺の主なわけだし! 守るのは当然だろ。……うん」

 何が言いたいのか自分でも分からなくなってきた。それどころか余計な事を口走ってしまった様な気がして咄嗟に取り繕ったが、ますますラインアーサの機嫌を損ねてしまった事に気づく。

「……何だよそれ。俺が母様似で女顔だから守るって事? ジュリって前から思ってたけどもしかして母様の事が好きなの?」

「は?」

「駄目だよ、母様は父様のだからな!」

 突拍子もないラインアーサの反撃にかっとなり、ジュリアンも本気で言い返す。

「おいまてよ、何でそうなるんだ? 違うって!! 確かに陛下や王妃様やイリア様も、俺にとっては懼れ多く尊ぶ存在だよ。でも俺はそれ以上にお前の事を、、考えてるんだ…! も、もちろん主として!」

「……むう」

「そもそも俺はお前の事頼りないなんて思ってないぜ! もし仮にそうだとしても頼りないから守るんじゃなくて、 アーサだからだ」

「俺、だから…?」

「だから俺は警備隊に入隊するって決めたんだ。そばでお前のこと守りたいけど今の俺じゃあまだまだ役不足だからな……」

「…っ全然そんな事ないのに」

 ラインアーサが小さく主張したの聴き逃したふりをして続ける。
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