《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「───何処に向かうのです?」

 早速王宮を抜け出すべく心を弾ませていたのだが、背後からの鋭い声に足が勝手に立ち止まった。恐る恐る振り返ると案の定立塞がるジュストベル。

「げ、じい様!」

「粗野な言葉遣いは慎むように。これからお客様が大勢お見えになります、くれぐれも粗相のない様に」

「わかってるって」

「さあ、もうじきお見えです。邪魔立てせぬ様そなたは自室に戻って……おや、ひと足遅かった様で。仕様がない、此処で一緒に御迎えしますよ」

「えー! 俺も!?」

「静かになさい」

 王宮に主要人が到着したらしく一気に緊張感が高まる。ジュリアンはジュストベルに倣い背筋を伸ばして隣に立つと、唇を真一文字に結び気を引き締めた。
 解放された会議の間の扉の傍らにジュリアンとジュストベルを含む王宮小間使いが立ち並び客人を出迎える。

 七つの国の王族やその関係者、総代者が多勢とやって来た。
 何度となくこの王宮で会議を開き、その都度手伝いもして来たがこうして間近で主要人を見るのは初めての事で息を呑む。

 高貴な雰囲気を放っているのは煌都パルフェのガトーレ司祭だ。
 その後を見た事も無いくらい透き通った肌に物言う花の様な女性。最早煌めいてすら見える。
 逆にアザロア国家のにこやかな男性は褐色の肌だ。
 オゥ鉱脈都市の領主アルマンディーと嫡男ブラッドフォードは何度もシュサイラスアへ来訪していて顔見知りの為、ジュリアンに気付くと小さく手を振ってくれた。
 流れる水の如く優雅な振る舞いで廊下を歩いてくるのはマルティーン帝国の皇帝だろうか。そのすぐ後ろをジュリアンと同じ歳頃の美少女が昂然と胸を張り歩いてくる。

「うわ、めっちゃかわいい……」

 其々の洗練された優美さに見とれていたジュリアンは思わず声を漏らした。しまった。と即座に口を抑えたが、ジュストベルにぎろりと睨まれる。しかもその美少女本人からも冷たい視線を送られた。

 更に、マルティーン帝国の一行の後方に控えて居た漆黒のマントを身に纏った黒髪の男が一瞬こちらに視線を寄越し、吐き捨てる様に言った。

「使用人に小僧とな……これだから田舎の国は…」

「!!」

 ジュリアンの耳が正しければそう聞こえたのだが、何処か聞き覚えのある冷淡な声と〝田舎の国〟という言葉節にはハッとなった。

 黒髪の男は全てに興味を失ったかの様な無表情のまま、会議の間へと入っていく。
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