《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「……っ」

 ジュリアンは異様に胸が落ち着かない不安な気分になり小声でジュストベルに問うた。

「っ…じい様、、今の誰?」

「……ルゥアンダ帝国の皇帝、ジャコウ様です」

 静かにそう答えたジュストベルの顔を見て目を見張った。一見普段と変わらないが怒っている時の様な険しい表情をしている。
 その険しい視線の先には先程のルゥアンダ皇帝、ジャコウが居た。

「じい様…?」

「ジュリアン、ここ迄で結構。後は部屋に戻ってなさい」

「でも……さっきの」

 ジュストベルは全ての客人を動員した事を確認すると会議の間の扉を閉めにかかった。

「そなたはここから先に入れません」

「知ってるけど! そうじゃあなくて…」

「……話があるなら後に。もう会議が始まりますのでお静かに」

 細くなった扉の隙間からジュリアンの口元に人指し指を押し当て、それだけ言い残すとジュストベルは中から完全に扉を閉めた。
 重く、大きな扉の前でジュリアンはただただ立ち尽くす。いや、精一杯考えをまとめていた。

「……もし、もし仮にだ。あの時の声の主がさっきのルゥアンダ皇帝本人だったとしたら。……何でわざわざあんな所で誰かと密会する必要があったんだ? うーーあー、思い出せ! 考えろ!!」

 ジュリアンはざわざわと騒ぎ立てる心臓の辺りを握り拳でどんどんと叩いた。あの日の事は少し前だが中々に強烈な出来事だった為まだハッキリと覚えている。

「確か……出来ないとか、出来るとか言ってたよな? 何が? それとこの国をやたら田舎田舎って…」

 確かにシュサイラスア大国は長閑な国だ。しかし栄えてはいる。この国以上に栄えていて尚都会の国となるとやはりルゥアンダ帝国とマルティーン帝国が上がる。
 例えばこの二つの国の主要人物が公的では無い場所で内密に会っていたとなれば確かに大問題だ。何故なら今行われている定例会議はリノ・フェンティスタ全土の今後を決める為のものなのだから。

 七つの国の代表がリノ・フェンティスタの行く末を担っていると言っても過言ではない。若しそのうち二つの国が反旗を翻したらどうなるのだろう。

「さすがに俺の考えすぎとか? ……でもこの場を見られたら命はないって言ってた。それくらいやばい所に遭遇したってのか? 俺たち…」

 実際に顔を見られた訳では無い為今は問題は無いはずだが、扉の向う側にいるラインアーサが無性に心配になった。
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