《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「っ……早く終われよ…」

 再びこの扉が開かれるまで己の無力さを憎みつつ結局ジュリアンは扉の前で落ち着けずに気を揉んで過ごした。


 ───遠くで正午を告げる鐘の音が鳴っている。定例会議は通常正午迄。もう少しで終わる筈だ。

「もし俺が、アーサのちゃんとした側近になればこの中に入れるのか…?」

 弱々しく口に出してみて直ぐに頭を振った。ラインアーサを守るのは勿論だが目標はもっと高い。側近になるのも一つの手ではあるがそれではジュリアンの理想から遠ざかってしまう。

「ちがう。俺は欲張りだからアーサも、家族も、この国も守れるようになりたいんだ」

 先程の言葉を塗り替える様にしっかりと口を動かした。

 どうやら会議も閉幕したらしく、扉口が騒がしくなる。そろそろ皆出てくる頃だ。

 重厚な扉がゆっくりと開かれると、ジュリアンは真っ先にラインアーサを目で探した。
 幸い何事もなくライオネルの横に立っているのが目に入ったが、なんとマルティーン帝国の美少女と何やら楽しげに雑談をしている。

「何だよアーサの奴…! さっきのかわいい子と楽しそうにおしゃべりかよ。心配して損したぜ!!」

 安心して気が抜けつつも何となくムッとしたジュリアンはとりあえず扉の横に控えながらラインアーサが廊下に出てくるのを待った。
 そわそわと落ち着かないジュリアンに気づきラインアーサが駆け寄って来る。

「ジュリ!! どうしたのこんな所で…」

「っ…どうしたもこうしたも、ちょっと気になる事があってさ……」

「気になる事? 何かあったのか?」

 ジュリアンは一応辺りを見渡すとルゥアンダ帝国の皇帝、ジャコウの存在を確認した。

「いや、ここではちょっと…」

「? あ、それより今日はメルテが来てるんだ。ジュリに紹介するよ!」

「メルテ? ってもしかしてマルティーン帝国の…」

「ジュリ知ってるのか? 確か歳はジュリと同じだった筈」

「まじか! あのめっちゃ可愛い子だよな!! へぇ同い歳かぁ」

 先程その美少女に冷たく睨まれた事は置いておいて、ジュリアンは興奮気味に頬を赤らめた。

「チョット! ナニ勝手にボクのコト紹介してるワケ!?」

 後方から可愛らしくも少し怒り口調の美少女が足早に歩み寄って、来てラインアーサの肩を掴んだ。

 華奢な身体付きに水縹(みずはなだ)の絹糸の様な髪。長い睫毛。近くで見るとその美しさと麗しさがより際立つ。
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