《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「あ、喉仏! オマエもう声替わりしているのか? チョット触らせろ」

「へ? や、無理っ! 駄目ですっっ!! ちょ、アーサ! 笑って見てないで助けて!!」

「ん? なになに? 俺も触ってみたい!」

「何言ってんの!?!?」

 ───三人で賑やかに騒いでいると其々名を呼ばれ一斉に振り返る。

「ジュリアン、何故此処に? そなたには部屋で待機と言った筈ですが」

「まあまあ。ジュストベル。この三人は年齢も近い様だし、何だか楽しそうじゃあないか」

「ですが陛下」

 早速怒り心頭のジュストベルに見つかった。そこにライオネルが入り場の雰囲気が柔らかくなる。普段ならこの隙に逃げ出してやる所なのだが今日はそうもいかない。
 それでもジュストベルのおかげでメルティオールから逃れる事が出来た事には感謝だ。

「メルテ! アーサ殿下と……コチラは?」

「グロス皇帝、これは私の孫めのジュリアンにございます」

「ジュリアン・アダンソンと申します。グロス皇帝」

 ジュストベルが深く一礼をしたのでジュリアンもサッと隣に並んで礼をした。

「ナント、アダンソン家の御令孫で! ワタシはマルティーンのグロスと申しマス。ウチのメルテと仲良くしてくれてアリガトウ」

「いえっ! とんでもございません!!」

 他国の皇帝から直々に感謝の言葉を向けられ身が引き締まる。グロスは気さくかつ優雅な物腰で挨拶を交わしてくれた。
 メルティオールと同じ水縹(みずはなだ)の髪。柔らかく緩めた優しい笑顔には人柄が滲み出ている。

 ふと、グロスとは正反対の凍り付く様な鋭い視線を感じ取った。視線の送り主はグロスの傍らに控えている目つきの悪い男のものだった。
 何故睨まれたのかは分からないが、おそらく側近か護衛の者なのだろうと思う事にした。

「イヤ、お恥ずかしいコトにウチのメルテはコノ気難しい性格のせいか中々歳の近い友人が居なくてね。モシお二方さえ良かったら、コノ後少しメルテの相手をしてやって欲しいのデスが?」

「もちろんです、グロス皇帝」

「そんな! 自分なんかが、身に余る光栄です」

 グロスの急な提案にラインアーサは素直に喜び、ジュリアンは一歩身を引くも喜びを伝えた。
 しかしメルティオール本人は不機嫌そうに眉間の溝を深くした。

「父上……。勝手なコト言わないでよ。ボクは、ボクにはミリアがいるんだ。ソレで充分なんだから、トモダチなんて……」
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