《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「待ってよジュリ!」

 後方からラインアーサの声がする。
 誰にでも真っ直ぐな気持ちで接するラインアーサ。だからこそ周囲から愛されるのだろう。ラインアーサが悪い訳では無いのだが何故か胸のあたりがもやもやした。

「はぁ、なんか情けないな俺」

 ラインアーサに続きメルティオールも若干息を切らしながら後を追って来た。

「チョット! こんな鬱蒼とした森のナカに入ってホントに大丈夫なワケ? ボク疲れたんだけど!」

「え! 疲れたの? 秘密基地はこの樹の上なんだけど登れそう?」

「コノ上ェ?! ボク木登りナンテしたコトないし!!」

「じゃあ俺が先に登って手を引きます。メルティオール様は後ろからアーサに押してもらって下さい」

「フン! オマエ達の手なんか借りなくても自分で登れる! ワッ!?」

「そこの(うろ)滑りやすいので気をつけてくださいね」

「ワカってる!」

 強がるメルティオールを助けつつ三人で何とか樹の上まで登り切った。背の高い樹なだけあり、地上よりも澄んだ風が吹く。

「とりあえずかけて下さい」

 太い樹の幹には大人でも余裕で寝転べる傘付きの大きな吊り床が二つほど設置してある。一つにメルティオール、もう一つにラインアーサと二人で腰をかけた。肌触りの良い毛織物や、綿がたっぷり入った座蒲団等の調度品も持ち込んであり居心地は大分良い。

「つ、疲れタ……」

 メルティオールは吊り床になだれ込むと乱れる呼吸を必死に整えている。

「良いだろここー! 俺とジュリの秘密基地なんだ!」

「ま。まあまあってトコじゃナイ? デモこんな隠れ家みたいなの作って、オマエ達ヒマなのか?」

「違うよ! 息抜きにここ来て本読んだり、たまに授業サボったりとかもするけど。気分転換したい時にここ来るんだ」

「フーン……。で、ハナシって何ナノ?」

「……メルティオール様。話す前に一つだけ良いですか?」

「何?」

「これは俺たちだけの秘密にして下さい」

「……ナニそれ。ベツにいいケド…」

「ありがとうございます。じゃあまずあの崖の話から」

 ジュリアンはあの日、断崖絶壁のテチラドでの出来事を話し始めた。

「──あの時は本当に大変だった! でっかい蜘蛛が顔に落ちて来て!」

「アーサは結局そこなの?」

「お前達よく死ななかったナ!」

 メルティオールは瞳を輝かせながら二人の囁やかな冒険劇に聞き入っていた。
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