《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「何ソノ顔? 名前呼んじゃダメなの? ト、トモダチなんでしょ…?」

 突然名前を呼ばれ驚いた顔でいると、照れた顔のメルティオールが小声かつ早口で捲し立てた。

「や、駄目だなんてとんでもないです! 俺の事はジュリでも何でも好きな様に呼んでくれて構いません!」

「モー! ワカッタって! ……まあ、ボクももう一人位は信頼出来ル相手を探シテみるか」

「メルテなら大丈夫だよー! かわいいし!」

「ウルサイ。アーサにカワイイって言われても全然嬉しくナイ! ハァ。何か疲れタ……。もう帰る」

 メルティオールは恥し気にそっぽを向くと王宮の方へと歩き出した。その背中を見守りながらラインアーサと二人で後を追う。

「……アーサ。俺さ…」

「ん?」

「いや、やっぱり何でもない。ちょこっと迷っただけ」

「? ジュリさっきから少し元気ないよな、疲れた?」

 ラインアーサが心配そうに顔を覗き込んでくる。
 情けない事に、志半ばで迷いが出たのだ。この素直で真っ直ぐな主をすぐ傍で常に見守って居た方が良いのだろうかと。しかし自分で決めた事だ、そう簡単に曲げる事は出来ない。

「はは、大丈夫だって! ほらメルティオール様をお見送りしようぜ」

「……うん」

 思いの他早足のメルティオールについて行き正門の内側まで来ると、王宮の入り口の所でライオネルとグロスが雑談している所だった。それに気がついたラインアーサが大きく手を振り、駆け寄って行く。
 どうやらライオネル達は他国の要人達を見送りがてら此処で立ち話をしていた様だ。

「アーサ! ちゃんと案内出来たのかい?」

「うん。メルテとジュリと三人仲良くなったんだ!」

「そうかそうか」

「メルテや、良かったじゃナイか!」

「まあネ」

 目尻を下げて喜ぶ様は、国王と皇帝と言えどもやはり父親だ。

「父様! 次の定例会は何処の国で開かれるの? 俺、もし次にマルティーン帝国で定例会がある時は付いて行きたいな」

「ん? ではこれからも見学に来るといい」

「おお! 我が帝国にもゼヒ! 心ヨリお待ちシテマス。メルテの上には姉妹が四人程居て、実は予てからアーサ殿下にお会いシテみたいと騒イデいたのデスよ」

「わあ! 俺にも姉様が居るけど、メルテの所は賑やかで楽しそうだね」

「ウルサイだけだシ、全然楽しくナイ。……ねえ、父上。ボクもう帰りたいんだケド、あれ? アイツは…?」
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