《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 王宮に居た頃は分からなかったが、ジュストベルの教えが如何に大切かを知った。
 自分はどれだけ恵まれた環境で過ごしていたかを、この一週間で嫌という程思い知ったのだ。

 国営警備隊は国中、至る所からの入隊希望者が絶えない。何故なら国からの保証も手厚い安定した人気職であるからだ。人が集まる理由は明白だが、この訓練所ですら基準に満ちた正規の審査を通った物のみが入所出来る。しかしそんな厳しい審査を通り訓練所に来た者でも厳しい訓練に耐えきれず辞めていく例も少なくない。
 そうなると余程武力の才能に長けた者、若しくは〝訳あり〟の者が必然的に残る。
 どうやら同室のクロキは後者に該当するらしい。訓練の休憩の合間に、他の訓練生が噂を立てているのを何度か耳にした。
〝天涯孤独の一匹狼〟だとか〝手づるでこの訓練所に入った〟だとか〝冷徹非道人間〟など、一番とんでもないのが〝国王陛下の隠し子〟などという眉唾物の噂まで含まれていた。
 訳ありの者は他にも何人かいるが要するに皆、行き場を無くし荒くれた性格の者が多いのだ。中でもクロキは群を抜いて浮いている存在だった。

「訳あり、か……」

 ジュリアンも王宮関係者で最年少の上にグレィスの息子だと知れていた為、多少噂の的になったのだが自力で正規の審査を通り訓練所に入所したのだ。余程の特例でもない限りその様な者は居ない筈。

「……ん。この香り…」

「あ、おはようございます! クロキ先輩」

「……ほう。早いのが得意と言っていたのは嘘ではない様だな」

 クロキはおよそ寝起きとは思えない程冴えた表情でベッドから起き上がると、素早く身支度を整え始めた。

「はい! 昨日解いた荷物、俺のじい様が此処の所属祝いに贈ってくれたお茶が入ってたんです。早速淹れて、お礼の手紙を書いてました」

「……」

「凄く珍しいやつなんで先輩もどうぞ!」

「お前……随分と強引だな。いや、でも頂こう」

「っ! ありがとうございます!」

 断られるのを前提に少し強引にお茶を出したので、茉莉花の香りを噛み締める様に味わいながら湯呑みを煽るクロキを見て更に嬉しくなった。

「……礼を言おう。美味かった」

「良かった! このお茶、気分転換だったり心を落ち着かせる効果があるんだそうで、朝とかたまに淹れるので先輩もまた一緒にどうぞ! あ、もちろん先輩が良ければで。じゃあ俺この手紙出すので先に行ってますね!」
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