悪魔なアイツと、オレな私
「じゃあさ……お前、好きな奴とか居たりするのか?」
「ぶふっ!……え、な、何?いきなり、何言ってるんだよ!?」
思わず飲みかけていたジュースを吐き出しそうになってしまった。
狙ったようなタイミングの治人の問いかけに、一瞬心の内を見透かされたのではないかと錯覚してしまう。
ただ、治人の視線が余りにも笑ってごまかすには真剣さを帯びていて、心臓が跳ねる。
「い、居ない……。居るわけないだろ」
思わず視線を反らして、飲みかけのジュースしか見れなくなった。
治人の視線は感じていたものの、目を合わせるのが怖くて指先が震える。
「はる…………治人は居る?好きな奴」
もしかしたら問いかける声が上擦ってしまったかもしれない。
女子高生一ノ瀬千秋が、告白の時に聞けなかった核心を、目の前の男に思わずぶつけてしまっていた。
治人は一瞬眉を下げて目を伏せる。
あまり自信の無さそうな顔のままで、缶をゴミ箱に投げ入れた。
「……居る」
短い返事だったが、治人は確かにそう呟いた。
怖くてその場から逃げたくて、それでも、千秋には興味がある、治人の好きな人。
もし、もし、千秋の事を好きだと言ってくれるなら、直ぐにレオの元へ行こう。
治人と両想いになれた報告をして、元の体に戻してもらおう。
戻ったらもう一度告白するんだ。
小さい頃から、治人だけを見てきたんだって。
ずっとずっと好きだったんだって。
「千秋…………俺さ……」
躊躇いながらも、治人の唇はその先の核心に触れる。
「俺……水野が、好きなんだ」