悪魔なアイツと、オレな私
「治人は良かったの?」
亜里沙の問いかけに休憩中のやり取りを思い出す。正直、あんな事を口にしておいて、治人に会い辛いというのが本音だった。
かといって、その理由を亜里沙に悟られるのも嫌だ。
「大丈夫。あいつ、部活だし。部活仲間と帰るって」
「ふーん……」
不自然になってないか、内心焦ったものの、亜里沙は曖昧な相槌を返して掘り返さなかった。
千秋はふと亜里沙に視線を送る。
夕日に照らされた彼女の瞳は、少し濡れて耀いて見える。
千秋も密かに憧れていた長い黒髪が揺れる。小柄なのに、顔立ちが少しきつめだけど大人っぽくて綺麗だな、と思う。
「……何?」
「え……?」
亜里沙への視線を外せなかったからか、彼女の方が気付いて訝しげな表情を作る。しまった、そんなに見つめていたっけ?鋭い亜里沙の誤魔化そうと、話題を適当に振ってみた。
「そう言えば、亜里沙は治人とか待ってたんじゃなかった?さっき」
千秋が眠ってしまっていた傍に亜里沙は居たが、一体何をしていたのだろう?
すると、少し目を伏せた亜里沙はそのまま黙り込んだ。
「亜里沙?」
少し様子が変に思えて、彼女の顔を覗き込んでみる。
長い睫毛が揺れていて、珍しく何か言い淀んでいる様だった。
「千秋が……起きないから」
「……俺?」
小さく呟いかれた意外な言葉に、意表を突かれてしまった。
噂を立てられるのが嫌だと言ったのは亜里沙の方だったのに。
「治人にも置いて行かれたら、千秋一人になるでしょ」
「子供じゃないんだから」
友人としてよりも子供扱いと格が下がってしまったようで千秋は思わず苦笑したが、亜里沙の視線は外されたままだ。
「でも、ありがとう。避けられてると思ってたから、亜里沙が待っててくれたのは、正直凄く嬉しかった」
本心だった。本当ならずっと一緒に行動していたのは亜里沙だし、治人の事で頭が混乱していたからこそ、亜里沙の言葉は本当に嬉しかった。
驚くように目を丸くした亜里沙の珍しくて可愛い表情も見れたし、少し治人の事を思い出さないでいられるのは嬉しかった。