ヒーローの君
プロローグ
「高校生になったんだ!これを機に告白してやる!」


10年来の親友のさつきが突然出した大声によって、周りから一気に視線を浴びる。
それに気づいた私、西山鈴葉は、突然どうしたの、と囁き声でさつきを宥めた。

第一志望の高校に合格した入学式の帰り。
毎年入学式の頃には散ってしまうことが多かった桜は、今年はちゃんと満開のまま残ってくれた。

その満開の桜の下で、未だ開かない恋を開かせる宣言をさつきはしたのだ!(全然うまくないなんて言わないで!)


さつきは中学生の時から、4歳年上のある男の人に恋をしている、らしい。
その男の人の正体や好きになったきっかけは全く教えてくれないので、どんな人かは全く想像ができない。なので、さつきがその人の話をした時は、さつきが好きな俳優の姿を頭に思い浮かべるようにしている。


「全く情報くれなかったら、手助けのしようもないんだけど…」


そう私が言うと突然さつきは立ち止まって、真面目な顔でこちらを向いた。


「鈴葉、自分の恋は自分で解決するよ。まぁ、今に見てな、ちゃちゃっと告白しちゃうよ」


私はゆっくりうなずいた。この顔は大丈夫だ。さつきがこの顔で何かを宣言した時は、本当に決心した時だ。

一度さつきな大事なCDにさつきの弟が傷をつけてしまったことがあった。
故意ではなかったのだが、さつきは今の顔で「あいつ殺す」と言ったかと思えば、本当に弟に包丁を向け、私が命がけで止めに入る始末だった。

つまり、良くも悪くも何が何でも実行する顔なのだ。

今回は良い方なので、私は笑って頑張れ、とだけ言った。



1週間後、満面の笑みでさつきが登校してきた時には、どうせ何も教えてくれないに決まっているので、よかったね、とだけ言っておいた。
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