釣り合わない!!~溺愛コンプレックス~
力無く家路をとぼとぼ歩いていると私の住んでるアパート前に、目立った外車が一台停まっていた。
それを見て、一瞬、その車の持ち主が響君なのではないかと、小走りに近寄ると運転席から出てきたのは、ピタッとしたグレーのパンツスーツがよく似合う年配の美人な女性だった。
彼女は車から下りると、私の事を知っているかのように直ぐに私に軽い会釈をする。
そして、戸惑う私に自分が響君の秘書であることを教えてくれた。
「以前、一度、仕事の件でお話をしたことがあります。神門響の社長秘書をさせていただいております、緒方と申します。
今回、貴方にお願い事があって、やって参りましたが、時間も無く、人目を避けるためにここで待たせていただきました。」
「貴女が・・・響君の秘書の緒方・・・さん?」
「ええ。貴女の元へも通達があったと思いますが・・・」
「商品の製造を中止の通達ですよね?
・・・社長の名前が響君じゃなかった。
あれは一体、どういうことなんですか?」
戸惑いと、焦りが入り交じって、責めるように聞いた私に、緒方さんは淡々と答えた。
「以前、貴女の元へ響社長との交際を止めるよう迫った女性がいましたね?
彼女は響社長の腹違いの姉になります。」
「あの・・・外国人の女性が響君のお姉さん?」
「えぇ。フランス人のお母様の血を濃く受け継がれていますがね・・・。
神門の事を貴方に説明できるのはここまでです。
貴方が響社長との絶縁を断ったことが國一様に伝わった事で、今、響社長は監視下に置かれ、ご自分の部屋から一歩も出ることが出来ない状況にあります。
ここまで話せば、もうご理解いただけますね?」
強く出るでもない。
彼女はあくまでも、淡々と連絡事項を伝えるような口調でそれを私に伝えると、今度は少し冷たい視線で私を見つめた。