釣り合わない!!~溺愛コンプレックス~
「はい。これで良いんですよね」
辞表届けに捺印をして、緒方さんに渡す。
一瞬、静まり返った部屋の中は自分の部屋とは思えないほどに居心地が悪かった。
「確かに受けとりました。」
緒方さんは辞表届けを用意していた茶封筒に入れると、ふぅっ・・・と、一つ溜め息をついて言葉を続けた。
「國一様に確認が取れた後、近日中に飛行機の手配を致します。」
それで早々とこの街を立ち去れということか。
一瞬で全てを失った実感は無くても、全てを奪われた私には苦笑いをすることもできない。
無言のまま俯いた私を、彼女は何度か振り返ったけれど、いつの間にか部屋から立ち去っていた。
こんな風になってしまってから思うことといえば、HAKUTOに入社したこと事態が悪かったような気がする。
私の9年間は一体、なんだったのかと・・・
響君との出会いはなんだったんだろうって・・・
彼に出会わなければ私はきっと、明日もいつもと変わらない日常を送っていたに違いない。
彼に出会わなければ、何も失わなかったはずだ・・・。
時間を、彼に出会う前に巻き戻したくても・・・
そんなことができるわけない。
彼に会わなければ
こんなに辛い思いはしなかった。
だけど
私は好きだったんだ。
彼のことなんかきっと、これっぽっちも知らなくても
好きな理由ばかり探して、彼の中の自分の居場所を知りたかっただけなんだ・・・
恋に理由なんてないことも
いつの間にか忘れていた。
でもきっと
伝わるよね?
あの捺印にこめた私の思い。
響君に幸せになってもらいたかった。
一番はそこにあったんだよ。