釣り合わない!!~溺愛コンプレックス~


「彩葉ちゃんが来てから、このうどん屋も華やかになったねぇ。」なんて言うお客さんがいれば

「私だって華でしょ!」と、冗談混じりに一蹴りする奥さん。

今までずっと、スーツとパンプスで仕事をしていた私は、今はGパン、ポロシャツ、エプロン、三角巾、スニーカーで働いている。


なんだかとても、親しみやすいけど

それでもやっぱり、どこか淋しいのだ。


夜19時、閉店間近で最後の注文を受けた頃には「もう大丈夫だから、帰りなさい」と、帰してくれる。

帰宅すると「お帰り」と、出迎えてくれるお母さんがいる。

昔は狭すぎた部屋も、妹達が巣だった後は、少しだけ広く感じる。

築50年くらい。

木造の平屋。

居間の他に部屋は3つ。洗面所もないから、洗面台なんてものもない。

風呂釜は昭和時代の四角形の青いやつ。

換気扇もない風呂場で、もくもくと湯気がたつ湯船に、鼻歌、歌いながら肩まで浸かる。

同じボロでも、9年住んでたあのアパートの方が何倍も良い物件だ。

でも、このボロ屋はボロ屋で、小さい頃からの思い出がたくさん詰まってる。

ある意味私達家族にだけは優良物件かもしれない。

でも、大きな地震がきたら、ひとたまりもないのは、聞かなくても分かる。







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