社長は今日も私にだけ意地悪。
それに、人のお昼ご飯を私が食べてしまっていいものか悩ましく、口を開かずにいると、社長は痺れを切らしたのか私の口元におにぎりを無理やり押し込んでくる。


「むごっ」

「苦しければ口を開けてちゃんと食え」

確かに苦しい。私は口を開け、上体を起こしておにぎりをいただくことにした。

……美味しい。お腹が満たされる。


「タレントだけでなく、マネージャーも身体が資本だ。まったく、心配させるな。馬鹿」

「……はい。すみません」

おにぎりが美味しいからか、さっきよりも素直な気持ちになれる。

……でも、もしかしたらこのおにぎりって……。


「このおにぎり、美咲さんの手作りですか?」

サランラップに包まれているし、市販のおにぎりではなさそう。
でも、食べる前のおにぎりは形が少々歪だった。美咲さんは料理は苦手なのだろうかと思ったけれど。


「秘書にそこまでやらせねえよ」

社長は即座にそう返答する。
……恋人だからってお弁当までは作ってもらわない、とかそういう意味だろうか。


すると彼は。

「それは俺が握ったやつだ」

「え」

嘘。社長の手作り? 社長、自分でおにぎり握っちゃうの?
そんな庶民派なイメージは微塵もなかったから驚きだけれど、朝からおにぎりを握っている彼を想像したら何だか可愛く思えた。


「……ふふ」

「何笑ってる。どうせ形が歪すぎて馬鹿にしているんだろ」

「ち、違いますよ」

「そんなに馬鹿にするなら、今度は芽衣が俺の為におにぎり作ってくれよ」

ぽん……と大きな手のひらが私の頭に置かれる。
何度か体感した心地良い重み。

私……やっぱり彼のことが好き。
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