社長は今日も私にだけ意地悪。
そして社長は、ゆっくりと語り始める。


「随分前の話だけどな。俺がこの会社で働き始めて一年位経った頃だったから、六年前か」


六年前? 私は高校生かな?
その時に社長と会っていた……?

訳がわからず、彼を見つめて言葉の続きを待つ。


「俺さ、自分で言うのもなんだけど、昔から大抵のことは何でもこなしてきた。子供の頃から勉強も得意だったし、親の期待にも周囲の期待にも応えてきたつもりだった」

「はい」

「仕事もそうだった。大学を卒業して、父親が経営するこの会社に入って、家族や周囲が求めるものを分析して、間違いなくそれに対応してきた。勿論、この仕事のことは好きだし、手を抜いたことは一度もないけれど」

私は何度も首を縦に振りながら、彼の言葉を聞き続ける。


「でも……一番肝心な相手の気持ちには、気付いていなかったんだ」

「一番肝心な相手?」

「俺もマネージャー業をしていた時期があったんだ。スターエモーション・マネジメントの業務内容は知り尽くしている必要があったからね。
その頃に担当していた歌手の女の子のことだよ」

そう話す彼の表情は、口元は笑っているのにとても寂しそうな目をしている。
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