社長は今日も私にだけ意地悪。
「え?」

「いや、出会ったというのは大袈裟か。見付けた……いや、見かけたといった方が正しいのか?」

ますます意味がわからない。見かけたってどういうことだろう。


「俺は、これからどうしていくべきか考える為、街を一人、ふらふらと歩いていた。
そんな時、路上でライブをしている二人組の男の子達がいてね。何となく立ち止まり、何となく歌を聴いていた」

「はい……」

「上手だなと思ったよ。
でも歌が終わった後、俺の隣にいた女の子が、ボーカルの男の子に声を掛けたんだ。
その女の子は、彼等の路上ライブをいつも聴いていた子だったようなんだけど、

『いつもより元気がなさそうな歌声だった。表情も弱々しい気がする。何かあった?』と言った」


あ……それってもしかして……。

薄っすらと蘇る数年前の記憶。
私の身にも、そんなことがあった気がする……。


「隣にいた俺は、何言ってるんだろうこの女の子は、って思った。
元気な歌声だったし、表情も笑顔だった。
そう思ったけれど歌っていた男の子は、
『わかる? 昨日失恋しちゃってさ〜』
と話し出した。
彼は落ち込みながらも、本当の心を隠して歌っていた。
その女の子だけが、彼のその気持ちに気付いていた……」

「……はい」

しっかりと、確かに頷く。

社長が話す〝その女の子〟は……確かに私のことだ。
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