社長は今日も私にだけ意地悪。
おろおろしていると、佐藤さんが私の手元に一枚のメモ用紙を滑らせてくる。
そこには殴り書きで『とりあえず打ち解けておけ』と書かれていた。

この打ち合わせ室が使用出来るのはあと十五分程のはず。それまでに彼らともっと話をしておけということだろう。

今までずっと喋ってくれていた佐藤さんが部屋から出て行き、空間が急に静寂に包まれる。
何か話さなきゃ! 大丈夫、明るさと元気の良さなら自信はある!


「皆さん、改めましてよろしくお願いしまーー」

「めぇちゃんだっけ? 今日からこの会社で働いてるの?」

私の言葉を遮ってそう尋ねてきたのは井ノ森さんだった。
めぇちゃんって私のこと、だよね? 突然下の名前で、しかもあだ名で呼ばれて戸惑うも、「はい、そうなんです」と返す。あだ名で呼んでもらうくらいの方が、早く打ち解けられるかもしれない。


「先月大学を卒業して、今日が社会人一日目でして」

「へぇ? それでさっきの男性が代わりに説明してくれてたんだ」


あ……もしかして私、彼らを不安にさせているのだろうか?
これから芸能活動をしていく彼らにとって、マネージャーというのは自分達の将来を安心して任せられる存在であってほしいはずだし、実際そうでなければならない。

それなのに、私みたいな明らかに何も分かっていない人間がそのマネージャーだなんて、良い気分はしないだろう。


「あの! 私、至らない点もたくさんあると思いますが、一生懸命頑張ります!」

「頑張るって口先だけならいくらでも言えるんだよ」

間髪入れずに低い声でそう返してきたのは、金髪の木崎さんだった。
< 14 / 154 >

この作品をシェア

pagetop