社長は今日も私にだけ意地悪。
「ほら、言ってみろ。圭、って」

「けっ、け⁉︎」

しかも呼び捨て⁉︎ それは私にはハードルが高すぎてどもってしまう。


「早く」

「け……圭さん」

呼び捨てでいいんだけど、と言われてしまうけれど、これが精一杯だ。
彼も「まあ、社長って呼ばれるよりはいいか」と行ってくれたのでとりあえず良しとしよう。


そんなやり取りをしていた時だった。

私の後ろのテラス席に座っていた、大学生くらいの女の子二人組の会話が聞こえてきた。


「最近音楽何聴いてる?」

「RED search! 知ってる? インディーズなんだけど超カッコいいの! 今度メジャーデビューするんだよ!」

「あ、知ってる知ってる! ミュージックインホームでlong riverの代打で二曲歌ったバンドでしょ⁉︎ あの時テレビ観ててさ〜、超カッコいい新人きたって思った!」

その会話に思わずドキリとしたのは言うまでもない。

ちらりと社長を見やれば、彼もまた私を見つめ、そしてクスッと笑った。


「嬉しいだろう、マネージャーさん」

「しっ!」

私は自分の口元に人差し指を宛てがいながら彼を軽く睨み付ける。


「やめめくださいよ、私がRED searchのマネージャーだって知られたらどうするんですか」

「彼等をこれからもよろしくお願いしますって言っておけばいい」

「不可抗力でバレてしまった場合は勿論そうしますが、自ら敢えてバラすことはしたくないと言っているんです」

私の言いたいことなんてわかり切っているはずなのに、やっぱり社長は今日も私にだけ意地悪だ。
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