社長は今日も私にだけ意地悪。
「ああ、悪かったよ。それより、その丁寧な話し方ももう少しどうにかならないか? 敬語抜きで話してほしいんだが」

「本当に反省してます⁉︎」

してるしてる、と返されるけれど、絶対にしていないことがわかるので、彼の希望する〝敬語抜きで話す〟のは今日はまだしないことにする。


その後も後ろの女の子達は、「RED searchの曲、テレビで歌ってた以外も知ってる?」や「メンバーの中だと誰が好き?」など、彼等の話題で盛り上がっていた。

あまりちらちら振り返ると不審者のようだから肩越しに声を聞くだけだったけれど、彼女達が笑顔で楽しそうに話しているのは声だけでわかる。

RED searchを応援してくれていることに感謝の気持ちを抱くと同時に、私とRED searchも、彼女達のようなファンの人達を楽しませ、笑顔にするという大事な仕事をしているんだなあと改めて感じる。

世の中に幸せを届ける仕事、と言ってもきっと過言ではない。

これからもRED searchの彼等と共に仕事を頑張ろうと再度決意する。


「そろそろ行くか」

圭さんに言われ、私も頷く。後ろの女の子達の会話も別の話題に変わっている。

椅子から立ち上がり、彼の隣に立つと、何故か真顔でじっと見つめられる。

何ですか? と返せばーーちゅっ、と唇にキスを落とされてしまった。


「な⁉︎」

一瞬だったから誰も見ていなかったと思うけれど、人前で何という大胆なことを!


恥ずかしいから外ではやめてください、と注意すると。


「だって芽衣、さっきからずっとRED searchのことばかり考えてたら」

「え?」

「そりゃあ確かに、芽衣と付き合う前、俺は二番目でも構わないとは言ったがな。デート中くらいは俺だけ見てろ」

不敵な笑いながらそう言う彼は、ぽかんと間抜けな顔をしてその場に立ち尽くすわたしを残し、テラスから出ていく。


二、二番目って……。確かにそういう話はしたけれど、あれは言葉のあやというか、話の流れで彼がそう言っただけであって……何より、圭さんのことを二番目の男性だなんて思っていないから!

もちろん、彼だってそれはわかっているはずだし、だからこその、あの余裕な表情なんだろうけど。

それなのに私は、さっきの彼からの不意打ちのキスにまだ胸がドキドキしている。

はあ、彼には敵わないなあ。

そんなことを思いながら、私はようやく足を動かし、彼を追い掛けた。
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