社長は今日も私にだけ意地悪。
とんでもない言葉が聞こえてきたような気がするけれど気のせいだよね? だって社長が言うはずのない台詞だった。

そう思い顔を上げるとーーさっきまで私を優しく包み込むように見つめていたはずの瞳は、驚く程に冷たく、背筋にぞくっと寒気が走った。



「あの……社長?」


気のせいじゃない?
だけど、何故突然、こうも豹変する?


いや、豹変した訳ではなく、元々こういう性格……?



「豹変したのか、元々こういう性格なのか、どっちだろうって顔してるな」

「っ!」

社長はやはりエスパーなのだろうか。またしても心の中を言い当てられるけれど、さっきの何倍も心臓がドキリとした。


「元々こういう性格、が正解」

社長は私のことを壁側に追いやると、私の背が触れるその壁に右手で触れながら私の正面に立つ。
私は写真と壁の間に見事挟まれてしまった。目の前には、至近距離に社長の端正な顔立ちが映る。


「まあ、社内では〝優しくて穏やかな社長〟で通しているから、俺の本性を知る社員はお前以外にいない訳だけど」

そう言いながら、更に顔を近付けてくる社長。社長に惚れたりしないと佐藤さんに宣言したけれど、これだけ綺麗な顔をした男性にこんなに顔を近付けられたら嫌でもドキドキしてしまう。
だけど、今はそこを気にしている場合じゃない。そんな甘い状況じゃないからだ。
そして、さっきまで冷たい瞳を向けてきていた彼だけれど、今は口角を釣り上げ、意地悪気に微笑んでいる。


「ほ、本性って? ずっと隠してきたことなら、どうして私にバラすんですか……」
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