社長は今日も私にだけ意地悪。
すると、フロアの階段の方から人が近付いてくる気配がして、社長は私から身体を離す。

しかし、距離感が元に戻ったとはいえ彼への警戒心が丸出しの私に、社長は馬鹿にしてくるように笑って。


「まあ安心しろ。本性がこうとは言え、別に殴ったり蹴ったりする訳じゃないんだから」


殴ったり蹴ったりって。それは極論過ぎる。そんなこと言われても、じゃあ大丈夫だと安心することなんて出来ない。


「ああ。あと安心要素はもう一つあるな」

「もう一つ、ですか?」

すると社長は、私の頭から爪先までゆっくりと視線をおろしていくと。


「襲ったりもしないから安心しろ。幼児体型には興味ない」

「なっ⁉︎」

よ、幼児体型って失礼すぎるでしょ! そりゃあ胸は小さいし、メリハリも対してないけれど……!


怒りでわなわなと震えてみたって、彼は構うことなく涼しい顔をしてみせる。



「俺の本性は実はこうだって誰かに話してもいいよ? 誰も信じないだろうけど」

「そうでしょうね……」


社長は実は口が悪くてSなところがありますなんて話したってところで、彼の言う通り、新人の私の言うことなんて誰にも信じてもらえる訳がない。
佐藤さんが社長についてあそこまでべた褒めということは、きっと他の社員も社長を尊敬しているのだ。
社長の悪口を言ったところで、私の方がおかしい人扱いをされて終わりだろう。


「じゃあな。ちゃんと仕事しろよ」

「……仕事はちゃんとします」

「あと、これ」

「え?」

急に顔の前に差し出されたから、思わず受け取ってしまった。
二つ折りにされたーーメモ用紙?
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