社長は今日も私にだけ意地悪。
そして訪れた日曜日。市民お花見祭りの二日目、そしてRed searchのステージ当日だ。
市民祭りはまず、市役所北側の市民公園がメイン会場となっており、私達がこれから演奏を行うステージが設立されているのもこの会場だ。しかし会場はここだけではなく、市役所の西側の陸上競技場とその周辺も会場の一部として使われている為、お祭りの規模は意外に大きく、祭りに訪れるお客さんの数もそれなりにいる。
昨日の夕方にも全員でステージの下見をするために会場にやって来たけれど、二日目の午後である現在も、客数は昨日の賑やかさとそれほど変わらないでくれている。
だけどやっぱり今日も……
「平和だね」
ステージ裏でギターのチューニングをしながら白石さんがボソッと言う。彼はこのステージに立つことに関して一番に賛同してくれたけれど、今の言葉はほんの少し私への皮肉が混じっているかもしれない。
その理由というのが、私達の想像以上に客層が子供だらけで……
「お母さーん! あれ買ってー!!」
「おしっこしたいー!!」
「ママー! お腹空いたー!!」
子供達のそういった声が、さっきからひっきりなしにと言っていいほどに溢れかえっているからだ。
今日のステージに立つ一番の目標は場数を増やすためだって社長が言っていたし、私もそう思う。だから客層にこだわることなくいつも通りの演奏をしてほしいと思うのだけれど、彼等のモチベーションは大丈夫だろうか。特にボーカルの木崎さんが一番心配だ……不満とかすぐに顔や態度に出そうだし……。
「木崎さん、大丈夫ですか?」
だから彼にそう声を掛けてみたのだけれど、私に振り向いた彼は満足気な顔で、
「昨日も思ったけど、意外にでかくて良いステージだよな」
と言ってくれたのだった。
昨日はそんなこと言っていなかったし、何より意外な返答だった。
市民祭りの実行委員会の方々が用意してくれたこのステージは、市民公園のちょうど中央に設立された手作りのもの。小学生の子供達が横一列に十人並んでダンスを踊っても余裕なくらいの横幅はある。確かに四人がバンド演奏をするには十分な広さだとは思うけれど、ステージの手作り感は隠し切れないし、そんなに嬉しそうな顔をしてくれるとは思っていなかった。
私のそんな疑問が顔に出てしまっていたのか、私の隣にいた井ノ森さんが、
「凛は結局、歌が歌るならどんな場所だっていいんだよ」
と言ってくる。