社長は今日も私にだけ意地悪。
ライブが終わると、私は実行委員会の人達に手伝ってもらいながらステージの撤収作業に入る。
運んだ荷物を私の車まで運ぶ。時間はそうは掛からなかった。
四人には、ステージ出演者達の控室となっている市役所の大ホールで待っててもらっていた。
撤収が済み、駆け足で大ホールへと戻ると……木崎さんと白石さんが喧嘩をしていた。
「一曲目があれだけ盛り上がってたのに、お前が二曲目バラードにするとか言ったから客が減ったじゃねえか!」
「選曲のせいにするなよ! あの曲を作ったのは凛だろ!」
「曲が悪いって言うのかよ! 詩を書いたのはお前だろ!」
ちょっと、喧嘩しないでください、と言いながら私は二人の間に入ろうとするけれど、「ああ、いいからいいから」と井ノ森さんに止められる。
「いつものことだから」と彼は言う。
彼の隣にいる青野さんに目を向ければ、彼も平然としていた。どうやら木崎さんと白石さんの喧嘩は本当にいつものことらしい。
「ライブ後はいつもこうなんだ。でも大丈夫。この言い合いがいつも次のライブに繋がるし、どうせすぐに脱線するしね」
「脱線?」と私が首を傾げると……
「大体、南はいつも無表情で演奏しすぎなんだよ! 盛り上がった時くらい笑えよ! 笑い方も知らねえのか!」
「クールなロック調の曲で魅せてるバンドなんだから、笑顔は必要最低限でいいんだよ! 凛こそ、そういう曲を歌ってるくせに、手振ってくれた子供に笑顔で手振り返してんじゃねえよ! 自分のキャラわかってんのかよ!」
「ああ!? 小さい子供可愛いだろうが!」
……ほんとだ。演奏会の反省会というよりはただの喧嘩になってきたような気がする。
お互いに怖い顔して怒鳴りあっているにもかかわらず、私はついクスッと声に出して笑ってしまった。