社長は今日も私にだけ意地悪。
浮かれ気味の私とは裏腹に、佐藤さんはふわふわの髪を掻き揚げ上げながら、

「あー、教育係なんてほんとに面倒臭ぇ。ただでさえ自分の仕事が忙しいのに、新人の面倒なんて見てられっかよ」

と言って、パソコンと向き合いながら盛大な溜め息を吐いた。


なるほど、それは確かにそうだろうな。
見渡せば、他の社員の方々も見るからに忙しそう。
あまり歓迎されていない気がしたのは、皆が佐藤さんと同じことを思っているからなのかもしれない。


「ご迷惑をお掛けしてすみません。何か私に出来ることはありますか?」

「何もねぇよ。とりあえず自分のデスクの掃除でもしておけ」

「はい、分かりました。あ、引き出しって開けてもいいんですよね?」

「あーもう、うるせぇな! いいに決まってんだろ!」

佐藤さんに言われた通り、デスク周りの整理整頓や引き出しの中身の確認などをしていた時だった。
営業部室の入り口の方から「社長⁉︎ どうなさいました⁉︎」という部長の声が聞こえた。

視線をそちらに向ければ、今朝エントランスでぶつかってしまった星崎社長の姿があった。


右隣で佐藤さんが「社長がうちへ来るなんて珍しいな」と言ったので、そうなんですか?と尋ねると。


「社長秘書が来ることはたまにあるけど、多忙な社長が自ら足を運ぶことなんて滅多にないな。
ていうかお前、社長が若くてカッコいいからって狙ったりすんなよ、恥ずかしいから」

「そんなことしません。
でも社長って優しいですよね。今朝、エントランスで少しお話ししたんです」

「今朝? 個人的にか? よく分からんけど、失礼なことしてねえだろうな」

「余所見してたらぶつかってしまいました」

「はあ⁉︎ ちゃんと謝っただろうな⁉︎」

そんな会話をしていると、突然部長から「柳葉さん! ちょっと!」と名前を呼ばれる。
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