社長は今日も私にだけ意地悪。
午後は、スタッフと共に撮影した写真をチェックしたり、記事にする簡単なインタビューに答えたりした。
全ての仕事が終わり、十六時にはスタジオを出て、私と木崎さんは駅に向かって歩いていた。
「木崎さん、すみません。駅まで少し距離あるのに経費の関係でタクシーじゃなくて」
「新人の分際でそんな贅沢、誰が言うかよ」
無数の人が行き交う大通り。今はこうして普通に歩いている木崎さんが、いずれ変装なしではいられない日が来るかもしれない。いや、そんな日を作るのが私の役目だ。
「良い写真が撮れて良かったです。インタビューの回答もばっちりでした」
「まあ、事前に質問内容もらってたしな」
「あと、スタッフの何人かに、先日作ったRED searchのデモCDもしっかり渡しておきました」
オフィスのレコーディングルームで作成した、簡単なCD。これが次の仕事に繋がること間違いなし!……なんて楽観的な考えはさすがにしていないけれど、可能性はゼロじゃない。今日の撮影だって、偶然がきっかけでいただいたものだ。いつ何が起こって仕事がもらえるかわからないのなら、私達のような新人アーティストは自らそのきっかけを作る必要がある。
「今度は、RED search全員の仕事が出来たらいいと思ってる。出来れば音楽の仕事で」
「きっと出来ます。私も頑張ります!」
明るい未来に想いを馳せながら、私達は帰路についた。