社長は今日も私にだけ意地悪。

十九時を少し回った頃に仕事が終わり、それをメッセージで社長に伝えると、オフィスから数分歩いた先にある大通り沿いのファッションビルの前で待っているように言われた。


急に誘われたから、カーディガンにロングスカートという普通の通勤着なのが惜しまれるけれど、せめてメイクはいつもより念入りに直し、髪もしっかりと整えた。



指定された場所に行くと、スーツ姿の社長がビルの入り口で既に待ってくれていた。

誰が見ても文句なしのイケメンな上に、スタイル抜群で一際目立つオーラを持ち合わせる社長が佇んでいると、行き交う女性のほぼ百パーセントが頬を赤く染めながら彼に振り向いていく。


「お待たせしました」

声を掛けると、社長も私に気付いて「おう。お疲れ」と微笑んでくれる。


少し久し振りに見る社長の顔……そしてその笑顔に、声に。社長の全てに胸がトクンとときめいてしまう。


オフィスで待ち合わせするのではなく、こうしてオフィスからわざわざ少し離れた場所で落ち合うのは、社長が私に気を遣ってくれているのかなと思った。新入社員の私が社長とプライベートで会っているなんて社内で知られたら、間違いなく変な噂を立てられるだろうから。

……と思ったけれど、すぐにそんな訳ないと思い直した。私に気を遣っているのではなく、秘書である恋人に知られたらマズいからこんな場所で会っているんだ。

社長は私のことを、恋人以外の遊び相手と思っている……ということだろうか。


社長へのこの恋をもう少し頑張ってみたい……と思っている一方で、やっぱり社長の恋人の存在を気にしてしまう。


これは頑張ったらいけない恋……だよね。
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